痛みの少ない治療

今から25年ほど前、私が獣医師になったころはお腹の中に大きな異常があることが疑われた場合、一般的な動物病院では身体検査、血液検査、レントゲン検査、さらにはまだ解像度の低い超音波による検査が行われ、診断不可能な場合には試験的開腹といって外科的にお腹を開けて診断と治療を同時に行う場合もありました。

現在2次診療施設では、CTスキャンやMRIなどの画像診断機器の出現や高性能超音波診断装置の精度向上で、お腹を開ける前に多くのことが診断できるようになってきました。

特に超音波診断機の精度は飛躍的に向上し、お腹の中や心臓の検査が大きな侵襲なしに可能になっております。高性能超音波診断機では、画像を見ながら生検を実施したり、特殊なチューブを腎臓に挿入したりできるため、開腹などの侵襲を避けることが出来ます。

また内視鏡(胃カメラや腹腔鏡)も使用できるようになり、それまでは開腹手術でしか対応できなかった胃内異物の除去や胃腸の生検も可能となりました。更には腹腔鏡の使用も可能となり、避妊手術もお腹を大きく開けず5mmの穴を3個開けるだけで手術が可能になっております。
避妊だけでなく膀胱結石の除去も開腹せずに小さな切開創にて施術可能になりました。当院が開院したころには動物に対して内視鏡の手術など考え難かった時代でしたが、今は当院にて胃カメラや腹腔鏡手術を施術しております。
いまだに動物では開腹手術が主流ですが、内視鏡の経験を重ねるに従い、やはり動物も人間と同様痛みや傷は小さい方が良いと考えております。現在当院では避妊手術をお受けいただく90%以上の飼い主様が、内視鏡(腹腔鏡)下での手術を希望されます。
是非当院にて痛みや負担が少ない治療をご検討ください。

今後も当院では可能な限り痛みや負担が少ない治療を取り入れ提供してまいります。
家族の一員である動物に対して痛みやダメージが少ない治療をお望みの飼い主様は、ぜひご相談いただきたく思います。

内視鏡(胃カメラ)

内視鏡

軟性内視鏡(胃カメラ)による消化管探査を行う手技です。
人間と異なり犬や猫に内視鏡(胃カメラ)を施術する際は全身麻酔が必要となります。
しかし異物誤食で開腹し胃切開の必要がほぼ無くなり非常に負担が少なく有益です。
大まかに以下の2通りの処置を行います。
1)上部消化管検査
食道~胃~十二指腸を観察し必要に応じて生検を実施したり異物を取り出したりします。
2)下部消化管検査
大腸を中心に観察し必要であれば生検を実施します。

内視鏡(腹腔鏡)

腹腔鏡を用いた外科手術

腹腔鏡とはお腹に小さな穴を開けそこからお腹の中を見るカメラのことで、腹腔鏡と専用の鉗子と血管シーリング機をお腹の中に挿入し手術を行うことで痛みや侵襲が少なく手術を行うことが出来ます。

腹腔鏡による手術は利点と欠点がございますので十分にご理解下さい。

腹腔鏡手術の利点

  • 1)術創(手術による傷)が小さい。
  • 2)術中、術後の痛みの減少
  • 3)術後の活動性の増加
  • 4)術後の早期回復
  • 5)術中術後のストレスホルモン等の減少
  • 6)術中に術部を容易に直接観察することが出来る

腹腔鏡手術の欠点

  • 1)手術手技が高度
  • 2)手術時間がやや掛かる
  • 3)費用が掛かる
  • 4)麻酔管理が高度
  • 5)開腹手術に切り替える場合がある

ご希望の飼い主様はスタッフまでお声掛け下さい。丁寧にご説明させていただきます。

エコーガイドによる処置

超音波検査装置(カラー)

近年超音波診断装置の発達でかなり精度の高い超音波画像が得られるようになりました。
超音波診断装置(エコー)は基本的には画像診断を行う機械ですが、それを利用し体腔内の臓器に針を挿入し生検したりチューブを挿管したりすることが可能になりました。
具体的には肝臓やリンパ節等の臓器に針を刺し生検を実施したり、尿管が詰まり腎盂が拡張した腎臓にチューブを挿入し一時的な排尿路を作ったりします。(腎婁チューブ)
また当院では雌犬に対して膣から鉗子を挿入し超音波ガイド下で小さい膀胱結石を採集する処置もしております。(犬の大きさによりますが、ある程度以上の結石は腹腔鏡または開腹の手術となります。)
以上のような超音波ガイド下の手技を利用することで開腹などの動物への負担を軽減することが可能となります。
お話をお聞きになりたい飼い主様はご相談ください。

血管シーリング機

血管シーリング機

従来手術中に血管を切る処置をする場合は必ず糸で血管を結んでから切っていました。
30年以上前はワイヤーや絹糸、獣腺を用いて結紮(縛って)していました。
その後は溶ける糸(化学合成した加水分解される糸)を用いており、現在でも使用されています。
近年電気メスの進化系の機械(リガシュアなど)が開発され血管をシール(くっつける)し結紮することが出来るようになり当院ではそれを使用しております。
この機械の利点は縫合糸を用いないので生体反応が起こりにくくそれに伴う炎症も少なくなるため疼痛も少ない利点があります。更には血管のシールをコンピューターが判断するためミスがありません。非常に優れた機械ですが高価なのが欠点です。

鎮痛剤

当院では痛みを伴う処置をする場合には鎮痛剤を積極的に使用しストレス軽減に努めております。
通常は非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAIDS)を用います。
痛みが強い場合は麻薬系鎮痛剤(モルヒネ等)を用いより積極的に痛みを抑えます。
モルヒネ等の麻薬系鎮痛薬を使用するには免許が必要となりますが当然当院では取得済です。
動物に対しても極力痛みの少ない治療を心がけてまいります。